ロングインタビュー:映画『009 RE:CYBORG』監督、神山健治[1/4]

ハリウッドでのリメイクが話題になっている『ゴジラ』を引き合いに出すまでもなく、優れたコンテンツは決まって息の長いものだが、その中でも特筆すべきオールドタイトルのひとつが、石ノ森章太郎の『サイボーグ009』だ。原作マンガの第1話は、なんと1964年の掲載。その時、サイボーグ戦士たちのコスチュームが緑色だったことを覚えているのは、日本のファンでも少数派だろう。そして石ノ森章太郎はまだ「石森」を名乗っていた。とはいえこれまで半世紀の間、この『サイボーグ009』は忘れ去られていたわけではなく、何度かリメイクされたTVアニメや、キャラクターの知名度を活かした企業CMでのコラボレーションで、時代ごとに新しいファンを生み出してきた。つまり、オリジナルに触れたことのない世代にも通じるだけのパブリックイメージが、1970年代にはすでに完成していたのだ。ちなみに、原作マンガの累計発行部数は1000万部を超えている。

そんなビッグネームにあえて再解釈のメスを入れたのが、2012年10月に公開された『009 RE:CYBORG』だ。監督、脚本を手がけた神山健治は、自らも愛してやまない『サイボーグ009』を「未完に終わったが故に、リブートが困難な企画だった」という。神山健治はなにを「再生」したかったのか──。

「いまの若い世代の目線にキャラクターを置いて、世界を見ていきたい。そこがうまくできたら面白いな、という思いがあります。今回の『009 RE:CYBORG』でも、いちばん描きたかったのは、そこですね」

1966年に生まれ、全盛期の『サイボーグ009』をリアルタイムで経験した。劇場版『WXIII 機動警察パトレイバー』と併映された短編アニメ『ミニパト』で2002年に監督デビューを飾っているが、その強い作家性が発現した監督作品としては、やはり同年に監督したTVシリーズの『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』を挙げるべきだろう。オリジナルのストーリー展開を軸に、深みのある社会性をテーマにした神山健治の『攻殻機動隊』は、原作者の士郎正宗や、師匠でもある押井守の監督作品に加えて「第三の攻殻」と呼ばれることも多い。以来、シリーズ化している『攻殻機動隊』で骨太なドラマを描き続けてきた神山健治が、初めてのリメイク作品として挑んだタイトルが、この『サイボーグ009』だった。企画の当初は脚本で参加し、監督には押井守が予定されていたものの、「009の再生」を目指した自身の脚本が採用されたことで、監督も引き受けることになった、という。

「いつかボーダレスになって、世界はひとつになるだろう……というのが、1980年代までのSFが見てきた夢だったわけです。それが実際に、東西の冷戦が終わって、ベルリンの壁もなくなったはずなのに、国と国とがむしろぶつかりあう結果となった。イデオロギーだったり、宗教だったり、なんでひとつにならないのか……。グローバル化の果てに、結果的には逆のベクトルに向かっていると思うんですよね。そこで『サイボーグ009』がいいなと思ったのは、いろんな国のヤツらが集まって闘っていた、というところなんです」

ヒーロー9人の国籍がすべて異なるという設定は、当時の日本のコンテンツとしては画期的だった。意に反して授けられた力を武器に、自らの創造主に闘いを挑む……というプロットは、同じく代表作である『仮面ライダー』にも共通する石ノ森ドラマの真骨頂だが、さらに『サイボーグ009』ではベトナム戦争を題材として取り上げるなど、豊かな国際色がもたらすストーリーの厚みがあった。その背景には、次回作のテーマを求めて海外を巡った取材旅行の見聞があったようだが……。

「まあ理屈でいえば『サイボーグ009』が作られた時代では、登場人物のキャラクターにバリエーションがあったほうが作品として魅力的になると考えられた、いわば後付けの設定だったと言えるかもしれません。ただ、その中で『サイボーグ009』が優れていたのは、主人公たちがみな何かが少しずつ〈足りない〉んです。だって、冷静に考えたら、島村ジョーとジェロニモだけいれば、無敵なんですよ(笑。ジェットなんか、見た目はスゴくカッコいいんだけど、飛べるだけだし(加速装置は設定上搭載されているが)。だから、映画の中でもあんまり使い勝手がよくないんです。ただ、そういうメンバーであるがゆえに、全員が力を合わせることで解決していく、そこが『サイボーグ009』のキモなんだと思います。その同じコンセプトを、1980年代に入ってマンガやアニメーションが進化して、リアリズムを追求していく過程で──これは士郎正宗さんに確かめたわけではないんだけど──おそらく『サイボーグ009』を現代風に、リアルにやったら、それが『攻殻機動隊』になったんじゃないかな、と思うんです」

そうか。実は士郎正宗、押井守、神山健治というラインは、最初から『サイボーグ009』とつながっていたのだ……。

2/4へ

© 2012 009 RE:CYBORG Production Committee

This is a TokyoOtakuMode original article.

ロングインタビュー:映画『009 RE:CYBORG』監督、神山健治[1/4] 1
ロングインタビュー:映画『009 RE:CYBORG』監督、神山健治[1/4] 2
ロングインタビュー:映画『009 RE:CYBORG』監督、神山健治[1/4] 3

These are your people. Join the TOM Fan Club to meet more fun, friendly otaku: https://otakumode.com/fb/8it