ロングインタビュー:映画『009 RE:CYBORG』監督、神山健治[3/4]

「往年のビッグタイトルを、蘇らせるということ。でも、ハイテクにはしない。そこを突き詰めたのが『攻殻機動隊』だったんだから、それをやっちゃダメだ、と思うんです。だから、あの時代にあったものが、いまの時代に生き残っていたとしたら、なぜ生き残る意味があったのか……あの9人がそのまま、不完全なまま、非効率なままいるのかもしれないけれど、それが意味していることはなんだろう、と。この作品はもっともっと掘り下げられると思っていながら、やはり1本の映画では描ききれなかった部分がたくさんあって、終わってみてなおさら感じるんだけど……彼らは、共有の正義感は持っていたはずなんです。全世界の敵として現れたブラックゴースト団に対して、自分たちだけが彼らと対峙し、世界にとっての正義をなせるはずだ、ということで闘って、いったん勝利して……。ところが闘う相手がいなくなって、実は人間の業こそがブラックゴースト団を生み、人間がいる限り第二、第三のブラックゴースト団が出てくるだろう、という事実に直面して、それでもお前たちは闘うのか……と問いつめられたところで、原作はいちど終わったんですよね。それから、原作者の石ノ森章太郎さんが、次はさらにスケールの大きな闘いを描こうとした中で、人間というものを掘り下げていくと、実は戦争がやめられない人間こそが、この地上においていちばんの悪なのではないか、と考えたのだと思うんです。で、その存在を否定しよう、やり直そう、ということで、神が襲ってくる……それが石ノ森章太郎さんが描けなかった、未完の部分だったわけです」

あの時代、手塚治虫がいて、石ノ森章太郎がいて、永井豪がいて、みんな別々の作家性でマンガの世界を広げていったのに、実は「その部分」だけはみな、同じテーマを描くことに挑戦している……。

「そうですね。ただ、みんな解釈は違っていて、石ノ森章太郎さんは〈神と闘う〉という状況が主人公たちに突きつけられたときに、それでも人間を守るべきだろうか、という問いに対して、なかなか答えが出せなかったように思います。で、答えが出せないまま、残念ながら病に倒れて、描ききれなかったという想いがあったでしょう。その点、手塚治虫さんは『火の鳥』で、毎回のエピソードで人間を恨んでみては『いや、でも人間は素晴らしい!』というのを繰り返していて、まさにそれが手塚治虫さんなんですね。それに対して『そんなもん、人間がダメなんだから、滅ぼしちゃえばいいんだよ』というのが永井豪さんだった。まあ『デビルマン』のラストシーンからそれ以降を描かないから、いまどう思ってるのかわからないですけどね。当時は、師匠である石ノ森章太郎さんに対して『先生、なに悩んでるんですか』と思ってたかもしれないですね」

石ノ森章太郎が描き残していった命題に、神山健治の『009 RE:CYBORG』はひとつの仮説を持ち込んでいる。それが普遍的な「解」であるかどうかは不明だし、唯一絶対の答えなどないのかもしれない。しかし、その仮説のためには、合理化やリアリズムとは別の「再解釈」で蘇らせる必要があったのだ、と強く感じた。電脳化が進行する管理社会の中で、行政の一翼として闘う『攻殻機動隊』の公安9課の足元に比べれば、最小規模の多国籍軍の中で正義感のシェアと倫理観のギャップに悩む『009 RE:CYBORG』のサイボーグ戦士9人は、自らのアイデンティティから逃れようがないという点で、終わることのない揺らぎの中に立っている。

「最初に『サイボーグ009』のリメイクの話が出たとき、かつて『攻殻機動隊』というリアリズムに振り切った作品をやっているのに、またその対極にある作品をやるのって、単純な先祖帰りになっちゃったりしないかなと、悩みはしたんです。当時はハイエンドなSFとして登場した『サイボーグ009』も、いま作るとレトロSFになっちゃうんじゃないかな、とか。あるいは、そうならないためにはどうするのか……。おそらくオリジナルのまま、石ノ森章太郎さんの絵のまま、当時の1960年代の匂いをそのまま出したマンガSFにしてしまうのもひとつの手ではあったと思うし、それを望んだファンもいたでしょう。でもね、自分はこれで、その両極の作品を手掛けたんだな、と思うんですよね」

2013年3月初旬、4カ月を超える異例のロングラン上映となった日本国内での公開が終了した。平行して公開されたシンガポールなどアジアの国々に加えて、4月にはスコットランドや英国での公開に先駆け、プレミア上映イベントのために神山健治はヨーロッパへ飛んだ。そして5月22日には、待望の『009 RE:CYBORG』Blu-ray&DVDパッケージが発売される。終わらせなければ、始まらない──往年の名作を再発見した『009 RE:CYBORG』のキャッチコピーは、映画を見終わったあとでジワジワと効いてくるボディブローだ。

「彼ら9人は、アメリカ型の完全無欠なヒーローでもないし、強大な組織のバックグラウンドもない。それぞれの国と、それぞれのアイデンティティを抱えてバラバラになった9人が、目の前に立ちはだかった〈神との闘い〉という壁に向かうため、もういちどひとつになろうとする物語です。そのドラマを理解するためには、やはり石ノ森章太郎さんの文脈を理解する必要があるとは思いますね。でないと、充分に楽しめないかもしれない。ただ、今回はみんなが忘れかけていたタイトルをリセットして、リスタートさせるというコンセプトで挑んだ作品なので、単純明快に楽しめるような作り方にはしていないんです。そういう意味では、いちばん味わいにくい料理を用意してしまったわけです。だから……かつての石ノ森ワールドが共有されていない海外の人たちには、まあ少なくとも3回は観てほしい!」

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