株式会社ストレートエッジ 三木一馬さんインタビュー

2017年08月16日

『ソードアート・オンライン』編集者の株式会社ストレートエッジ代表取締役、三木一馬さんに海外でのSAO、海外に住むSAOファンに向けたメッセージを中心に独占インタビューを行いました。




ーまず、三木さんと『ソードアート・オンライン』の最初の出会いを教えてください。
作者の川原礫さんは2002-2003年頃からご自身のサイトで『SAO』を連載されていまして、7年くらいかけて、アリシゼーション編までを書ききっておりました。
その後、川原さんがSAOとは別の作品で、2008年の第15回電撃小説大賞に応募されました。その時の作品が『アクセル・ワールド』です。これが大賞を受賞し、自分が担当編集者になったというのが川原さんとの出会いのきっかけです。『アクセル・ワールド』は2009年2月に電撃文庫から発売されました。

その『アクセル・ワールド』が発売される前、2008年の10月くらいのことですが、打ち合わせをしているとき、川原さんがどうやら過去にアマチュアですごく有名な小説を書いていたらしいということがわかりました。

ですので、「応募原稿の『アクセル・ワールド』以外に書いた原稿があるらしいじゃないですか。噂によるととても有名らしいじゃないですか!よかったらそれを読ませてください」というメールを送りました。川原さんは、「膨大な量なので覚悟してくださいね(笑)」と言って、電撃文庫のページ数換算で4200ページ、つまり電撃文庫約16巻分相当……プリントアウトすると机の上に顔くらいまで積み上がる大量のワードファイルが届きました。それが、次の川原さんとの打ち合わせの1週間前だったのですが、これを事前に読んでおかなければいけないと思って1週間ほぼ徹夜でやり遂げました。これが『ソードアート・オンライン』との最初の出会いです。




—『ソードアート・オンライン』が電撃文庫から発売されて日本で話題になりましたが、どのタイミングで海外でも熱量があると伝わってきたのでしょうか。
国外でいうと、川原さんがデビュー前にSAOの翻訳版の話が来ていました。これはとても珍しいことで、韓国の方からでした。結果その当時はまだデビューもしていなかったので実現しなかったのですが、その時にお問い合わせをしてくださった方に商業版SAOはオフィシャルで翻訳許諾先に選ばせていただきました。

国内ですと、まず1巻は2009年の4月10日に発売されました。その後、4ヶ月に1冊のペースで発売しました。当初はすぐに大ブレイクというほど急に販売数が伸びたわけではなく、中堅どころで固いファンがたくさんいらっしゃる印象でした。
当時は学園アクションなどの現代劇が全盛期の頃で、ファンタジーっぽい題名や雰囲気をした作品はそこまで人気となる土壌はありませんでした。加え、『●●●・オンライン』という題名が「ゲームのノベライズ」と誤解される恐れがありましたので、なるべくカバーや説明文ではオリジナル作品だということをアピールしました。

そして3年くらい刊行し続けている中で、世界各国から翻訳オファーが来ました。台湾、中国、韓国、東南アジアからなどです。SAOのアニメーションが2012年7月に始まってからは、その他の地域からもどんどんオファーが届くようになりました。

小説はコアなカルチャー作品なので、すごく狭い範囲の人にしか届きませんが、逆にアニメーションという媒体は最大の告知力があるので、全世界に知っていただくことができるようになりました。今はアメリカでも翻訳本が出て、バーンズ&ノーブルのSF部門ランキングで上位になったりと、アニメーションの力が一番大きかったかなと感じています。

—そうなんですね。実際に展開されていく中で、この作品は海外で受けるかもしれないというのは考えましたか?
いいえ、全く考えていないです。たまたま海外でも受けた、というのが正直なところです。今も、作る時は気にしていないです(笑)。




—SAOは海外で人気が出て、イベントも開催されるようになりましたが、三木さんも行かれたものはありますか?
僕はアメリカロサンゼルスのアニメエキスポへいきました。フランスのジャパンエキスポもですね。そしてシアトルのサクラコンも。今年は劇場版オーディナルスケールのLAでのプレミアム上映にもいきました。


**—イベントを通して、海外ファンの熱量はどのように感じられましたか?日本と海外でのSAOファンに違いはありますか?** 各国でカラーが全然違いますね。まず、日本と日本以外でかなり違います。日本以外の人はお祭り騒ぎを体で楽しんでいるのが見ていてわかります。コールもすごくて、「かーわはらせーんせー!」といったようなコールをするのがとても楽しそうです(笑)日本は楽しんでいるという空気は同じなのですが、厳かに、内なる楽しみ方が多いような気がしています。 台湾、香港もアジアでファン層は近いはずですが、お祭り度が違いますね。大騒ぎをする、という。北米、欧州の方もそういう意味では大騒ぎをする方ですね。

あと、少しだけ笑いのツボと感動のツボの感性が違うような気がします。「絶対これめちゃくちゃ感動させられる完璧だ!」と思って作ったシナリオや「これいいセリフだ!」と思ってたところで笑われてしまったり(笑)プレミア上映を後ろで見ていたりするのですが、日本とはかなり違いますね。


**—例えばアメリカなどへは何度も行かれてたりすると、SAOファンの反応の違いを感じることはありますか?** 最初からすごく迎え入れてくださっていて、人気があるということはずっと変わらないですね。一部の方は日本の最新情報まで全部知ってらっしゃって、国内かな?と思うくらい質問が鋭くて濃いですね。例えばウェブでは公開されていた内容を、刊行する前の質問をされたりします。当然翻訳されていないのですが、おそらく有志の方々が翻訳して読んでいたりするのだと思います。日本人と同じ、もしくはそれ以上に詳しい方もいらっしゃいますね。




ーご自身の著書で携わった作品をハリウッド化したいとお話されていましたが、実際にその夢が叶うことになって、どのように感じられましたか?
言霊ってあるんだなと思いました(笑)。言い続けるということが大事だと思いました。
個人的にはハリウッド化はメディアミックスの一つなんですよね。元々は小説だったものがアニメ、ゲーム、コミック、実写映画など多くの媒体になっていきますが、そのチャンネルはとにかく川原礫が書いた小説をみんなに知ってもらうための手段でしかないと究極的には思っています。その手段が大きければ大きいほど、お金がかかっていればかかっているほど、リッチであればあるほど、いろいろな人に見てもらえる。

その手段の中で全世界の中で現時点での最強のチャンネルがハリウッド映画・ドラマだと思っています。お金をかけたオープンワールドゲームも、チャンネルとしてとても価値があるとは思いますが、一般大衆に安価で伝わる、映像があるのは映画やドラマだと思っています。より多くの人にSAOを知ってもらえるかもしれない、という思いからハリウッド映画と口にしていました。


**ーより多くの人にSAOという作品が広まっていくと思いますが、どうしてSAOは海外でもここまで受け入れられているのだと思われますか?** それがわかってたら僕の作品は全て世界で売れまくっているはずですね(笑)。

結局後付けの分析に過ぎませんが、理由は2つあります。
ひとつは、この作品がライトノベルっぽくなかったということが大きかったと思っています。今でこそSAOをライトノベルのお手本のように思われていますが、僕が本として出そうと考えた当初は全く逆で、ライトノベルらしくないので「やばい」と思ってました。なぜなら序盤から主人公とヒロインがくっついてしまっていたから(笑)。通常、ラブストーリーというのは男女がくっつくところまでが面白いんですよ。しかも、ゲームの中ではあるけど『最後』まで行ってしまう。そんな作品は、ライトノベルっぽくないなと言うことで、大丈夫かなと思っていました。

もうひとつは、『ファンタジーであること』と、『ゲームのノベライズだと思われる恐れがあること』ですね。ゲームもののラノベが、今はとても数多く存在しますが、当時は珍しかったんです。例えば甲子園を目指す高校野球を描いた作品だと、三年間真剣に頑張っていて、読み手側も一回負けたら終わりだ思いながら戦っているのでとても感情移入できるんです。しかし、野球ゲームのプレイヤー同士の決着なんて、正直どっちでもいいじゃないですか。負けても勝っても、そのあと一緒にファミレスでご飯食べればいいじゃんって(笑)。そういった没入度の違いがあって、ゲームはリセットできるものと考えられる恐れがあったかなと。ゲームじゃなくて現実世界で苦労した方が良いのでは? と個人的にノれなかったんです。
しかしSAOはデスゲームですから、必死にならないと生き残れないという状況があって他のゲームものとは一線を画していました。また「ゲームをやるのが当たり前」という認識が時代的に40〜50代にまで広く浸透しはじめてきていたり、MMOという一つのカテゴリのあるあるネタがわかりやすくなってきていたり、偶然にトレンドの追いつきが重なったという点もあるのではないでしょうか。




ー今後の『ソードアート・オンライン』の海外での展望、三木さんご自身が希望されるあり方を教えてください。
最近の試みとして、SAO Future Labという、アスキーさんと企画連動して日本の未来テクノロジーを研究している会社さんと一緒にSAOのグッズを作っていく、SAOの世界を実現できたらこうなる、というものを作ってマネタイズしていこうという企画があります。
もしかしたらちょっと頑張ったらSAOの世界を実現できるのかもしれないというドキドキワクワクな展開、SAOはちょっと背伸びをした未来っていう像なんです。全世界でAIやVR、MRなど色々な技術が発達していっている中で、最新技術を使ってSAOをこんな風に表現していくというものを作っていただけたら、こんなに原作冥利に尽きることはないですね。ハリウッド化から、VRなどそういうものが作られていくと嬉しいです。


**—今までのお話から、小説を売るためのツールがメディアミックスだと思うのですが、編集者という立場からマーチャンダイジングというものにはどのようなお考えをお持ちでしょうか?** マーチャンダイジングは基本的にそのファンに対して出していくグッズで、思い入れを形にしていくものだと思うのですが、それはディフェンス的な展開であると考えています。もちろんそれも大切ですが、しかし、それと同時にオフェンス的なマーチャンダイズもあるべきだと考えています。 例えば先述したFuture Labですね。ベンチャー企業の皆様にSAOを知ってもらえるようになり、SAOが好きなファンにはその商品やメーカー、ブランドなどを知ってもらうことができます。相互にプラスの要素があるものを提案できるならば、メリットしかないと思っています。




ーSAOの場合、海外でもグッズがたくさん売れていますが、どこに理由があるとお考えでしょうか?
グッズが買われやすい、というのはまず母体の大きさが必要になるとは思います。そもそものファンの方は、おそらくアニメの作品を見たからきっとグッズを購入することになったと思うんです。でも作品のカラーによってファンがグッズを欲しがってくれるかどうかは違います。SAOはコアなファンたちが火をつけてくれました。それがインフルエンサーだとするならば、世界中にそういった属性の人々が多かったのかなと思います。


**—三木さん的に、SAOで商品化したら面白いと思うグッズはありますか?** 1/1 ユイ(即答)!フィギュアではなく、ユイは電脳のAIなので、オーディナルスケールの作中のように肩に乗ったりする妖精みたいなガチなタイプです。実際にインタラクションできるといいですね。例えばお子様タイプではいろいろしつけられて、人によって全然違うユイがいたらいいなと思います。
**—個人的にお好きなキャラクターはいらっしゃいますか?** コアなところいっていいですか?(笑)《アリシゼーション》編に出てくる、リルピリンというオークが好きです。オークなので不細工なんですけど、オーク族の中ではイケメンというプリンスなんです。《アンダーワールド》に落ちてきて女神のような姿になっているリーファ(直葉)に惚れるんですけど、オークとしては一番のイケメンなのに、世の中にはこんなに美しい女性がいるのかと落ち込むんです。この落差が良いですね。もう一人、リルピリンの許嫁の姫騎士オークが自己犠牲的に死んでいってしまうのですが、その女の子オークも見た目は豚なのに、とても美しいと感じさせてくれる演出があって、とても魅力的です。
**—Tokyo Otaku Modeが作る武器PCメガネについて。オススメはどれですか?** この中ではキリトですね、黒メガネの二刀流が良いです。これまでメガネをかけたことなかったんですが、かけやすかったです、全然普通に使用できますね。




シノンはもともと作中でもメガネをかけてるので、キャラクターとしてもとても合っています。アメリカではシノンが大人気ですもんね。オキュラス・リフトの創業者パルマー・ラッキーさんの奥様がコスプレされていたり(笑)



ーでは、最後に海外に住む『ソードアート・オンライン』ファンに一言お願いします。
お陰様で劇場映画がすごく人気で、ご好評いただけていると思います。いろいろな声がこちらにも届いてきております。すごく頑張って作ったので、結果も良くて本当にありがたいなと思っています。みなさまの声はスタッフのみんなにも届いているので、次の展開も少なからず近い将来お伝えできるかと思っております。ぜひ楽しみにしていてくださいね。

SAOの原作小説シリーズは現在、最長の《アリシゼーション》編がひと段落して後日談を川原さんがお書きになっているところです。これが終わったら新しいシリーズを始める予定です。今後は完全書き下ろしの最新作が出てきます。2017年の川原礫が描く、最新のSAOにもどうぞご期待ください。

ーありがとうございました!




『ソードアート・オンライン』 武器PC眼鏡
インタビュー英語版はこちら


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