『ソードアート・オンライン』編集者の株式会社ストレートエッジ代表取締役、三木一馬さんに海外でのSAO、海外に住むSAOファンに向けたメッセージを中心に独占インタビューを行いました。
ーまず、三木さんと『ソードアート・オンライン』の最初の出会いを教えてください。
作者の川原礫さんは2002-2003年頃からご自身のサイトで『SAO』を連載されていまして、7年くらいかけて、アリシゼーション編までを書ききっておりました。
その後、川原さんがSAOとは別の作品で、2008年の第15回電撃小説大賞に応募されました。その時の作品が『アクセル・ワールド』です。これが大賞を受賞し、自分が担当編集者になったというのが川原さんとの出会いのきっかけです。『アクセル・ワールド』は2009年2月に電撃文庫から発売されました。
その『アクセル・ワールド』が発売される前、2008年の10月くらいのことですが、打ち合わせをしているとき、川原さんがどうやら過去にアマチュアですごく有名な小説を書いていたらしいということがわかりました。
ですので、「応募原稿の『アクセル・ワールド』以外に書いた原稿があるらしいじゃないですか。噂によるととても有名らしいじゃないですか!よかったらそれを読ませてください」というメールを送りました。川原さんは、「膨大な量なので覚悟してくださいね(笑)」と言って、電撃文庫のページ数換算で4200ページ、つまり電撃文庫約16巻分相当……プリントアウトすると机の上に顔くらいまで積み上がる大量のワードファイルが届きました。それが、次の川原さんとの打ち合わせの1週間前だったのですが、これを事前に読んでおかなければいけないと思って1週間ほぼ徹夜でやり遂げました。これが『ソードアート・オンライン』との最初の出会いです。
—『ソードアート・オンライン』が電撃文庫から発売されて日本で話題になりましたが、どのタイミングで海外でも熱量があると伝わってきたのでしょうか。
国外でいうと、川原さんがデビュー前にSAOの翻訳版の話が来ていました。これはとても珍しいことで、韓国の方からでした。結果その当時はまだデビューもしていなかったので実現しなかったのですが、その時にお問い合わせをしてくださった方に商業版SAOはオフィシャルで翻訳許諾先に選ばせていただきました。
国内ですと、まず1巻は2009年の4月10日に発売されました。その後、4ヶ月に1冊のペースで発売しました。当初はすぐに大ブレイクというほど急に販売数が伸びたわけではなく、中堅どころで固いファンがたくさんいらっしゃる印象でした。
当時は学園アクションなどの現代劇が全盛期の頃で、ファンタジーっぽい題名や雰囲気をした作品はそこまで人気となる土壌はありませんでした。加え、『●●●・オンライン』という題名が「ゲームのノベライズ」と誤解される恐れがありましたので、なるべくカバーや説明文ではオリジナル作品だということをアピールしました。
そして3年くらい刊行し続けている中で、世界各国から翻訳オファーが来ました。台湾、中国、韓国、東南アジアからなどです。SAOのアニメーションが2012年7月に始まってからは、その他の地域からもどんどんオファーが届くようになりました。
小説はコアなカルチャー作品なので、すごく狭い範囲の人にしか届きませんが、逆にアニメーションという媒体は最大の告知力があるので、全世界に知っていただくことができるようになりました。今はアメリカでも翻訳本が出て、バーンズ&ノーブルのSF部門ランキングで上位になったりと、アニメーションの力が一番大きかったかなと感じています。
—そうなんですね。実際に展開されていく中で、この作品は海外で受けるかもしれないというのは考えましたか?
いいえ、全く考えていないです。たまたま海外でも受けた、というのが正直なところです。今も、作る時は気にしていないです(笑)。
—SAOは海外で人気が出て、イベントも開催されるようになりましたが、三木さんも行かれたものはありますか?
僕はアメリカロサンゼルスのアニメエキスポへいきました。フランスのジャパンエキスポもですね。そしてシアトルのサクラコンも。今年は劇場版オーディナルスケールのLAでのプレミアム上映にもいきました。
あと、少しだけ笑いのツボと感動のツボの感性が違うような気がします。「絶対これめちゃくちゃ感動させられる完璧だ!」と思って作ったシナリオや「これいいセリフだ!」と思ってたところで笑われてしまったり(笑)プレミア上映を後ろで見ていたりするのですが、日本とはかなり違いますね。
ーご自身の著書で携わった作品をハリウッド化したいとお話されていましたが、実際にその夢が叶うことになって、どのように感じられましたか?
言霊ってあるんだなと思いました(笑)。言い続けるということが大事だと思いました。
個人的にはハリウッド化はメディアミックスの一つなんですよね。元々は小説だったものがアニメ、ゲーム、コミック、実写映画など多くの媒体になっていきますが、そのチャンネルはとにかく川原礫が書いた小説をみんなに知ってもらうための手段でしかないと究極的には思っています。その手段が大きければ大きいほど、お金がかかっていればかかっているほど、リッチであればあるほど、いろいろな人に見てもらえる。
その手段の中で全世界の中で現時点での最強のチャンネルがハリウッド映画・ドラマだと思っています。お金をかけたオープンワールドゲームも、チャンネルとしてとても価値があるとは思いますが、一般大衆に安価で伝わる、映像があるのは映画やドラマだと思っています。より多くの人にSAOを知ってもらえるかもしれない、という思いからハリウッド映画と口にしていました。
結局後付けの分析に過ぎませんが、理由は2つあります。
ひとつは、この作品がライトノベルっぽくなかったということが大きかったと思っています。今でこそSAOをライトノベルのお手本のように思われていますが、僕が本として出そうと考えた当初は全く逆で、ライトノベルらしくないので「やばい」と思ってました。なぜなら序盤から主人公とヒロインがくっついてしまっていたから(笑)。通常、ラブストーリーというのは男女がくっつくところまでが面白いんですよ。しかも、ゲームの中ではあるけど『最後』まで行ってしまう。そんな作品は、ライトノベルっぽくないなと言うことで、大丈夫かなと思っていました。
もうひとつは、『ファンタジーであること』と、『ゲームのノベライズだと思われる恐れがあること』ですね。ゲームもののラノベが、今はとても数多く存在しますが、当時は珍しかったんです。例えば甲子園を目指す高校野球を描いた作品だと、三年間真剣に頑張っていて、読み手側も一回負けたら終わりだ思いながら戦っているのでとても感情移入できるんです。しかし、野球ゲームのプレイヤー同士の決着なんて、正直どっちでもいいじゃないですか。負けても勝っても、そのあと一緒にファミレスでご飯食べればいいじゃんって(笑)。そういった没入度の違いがあって、ゲームはリセットできるものと考えられる恐れがあったかなと。ゲームじゃなくて現実世界で苦労した方が良いのでは? と個人的にノれなかったんです。
しかしSAOはデスゲームですから、必死にならないと生き残れないという状況があって他のゲームものとは一線を画していました。また「ゲームをやるのが当たり前」という認識が時代的に40〜50代にまで広く浸透しはじめてきていたり、MMOという一つのカテゴリのあるあるネタがわかりやすくなってきていたり、偶然にトレンドの追いつきが重なったという点もあるのではないでしょうか。
ー今後の『ソードアート・オンライン』の海外での展望、三木さんご自身が希望されるあり方を教えてください。
最近の試みとして、SAO Future Labという、アスキーさんと企画連動して日本の未来テクノロジーを研究している会社さんと一緒にSAOのグッズを作っていく、SAOの世界を実現できたらこうなる、というものを作ってマネタイズしていこうという企画があります。
もしかしたらちょっと頑張ったらSAOの世界を実現できるのかもしれないというドキドキワクワクな展開、SAOはちょっと背伸びをした未来っていう像なんです。全世界でAIやVR、MRなど色々な技術が発達していっている中で、最新技術を使ってSAOをこんな風に表現していくというものを作っていただけたら、こんなに原作冥利に尽きることはないですね。ハリウッド化から、VRなどそういうものが作られていくと嬉しいです。
ーSAOの場合、海外でもグッズがたくさん売れていますが、どこに理由があるとお考えでしょうか?
グッズが買われやすい、というのはまず母体の大きさが必要になるとは思います。そもそものファンの方は、おそらくアニメの作品を見たからきっとグッズを購入することになったと思うんです。でも作品のカラーによってファンがグッズを欲しがってくれるかどうかは違います。SAOはコアなファンたちが火をつけてくれました。それがインフルエンサーだとするならば、世界中にそういった属性の人々が多かったのかなと思います。
シノンはもともと作中でもメガネをかけてるので、キャラクターとしてもとても合っています。アメリカではシノンが大人気ですもんね。オキュラス・リフトの創業者パルマー・ラッキーさんの奥様がコスプレされていたり(笑)
ーでは、最後に海外に住む『ソードアート・オンライン』ファンに一言お願いします。
お陰様で劇場映画がすごく人気で、ご好評いただけていると思います。いろいろな声がこちらにも届いてきております。すごく頑張って作ったので、結果も良くて本当にありがたいなと思っています。みなさまの声はスタッフのみんなにも届いているので、次の展開も少なからず近い将来お伝えできるかと思っております。ぜひ楽しみにしていてくださいね。
SAOの原作小説シリーズは現在、最長の《アリシゼーション》編がひと段落して後日談を川原さんがお書きになっているところです。これが終わったら新しいシリーズを始める予定です。今後は完全書き下ろしの最新作が出てきます。2017年の川原礫が描く、最新のSAOにもどうぞご期待ください。
ーありがとうございました!
『ソードアート・オンライン』 武器PC眼鏡
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